『理玄異聞録』の志岐理一郎と久遠異紀が背中合わせに立つ

理玄異聞録

京洛怪異観測譚

理は形を測る。
異は声を写す。
ここに、並び立ちて記す。

RIGEN IBUNROKU
第一話を読む

一話完結の連作短編

「これ、記すか?」

「――残す」

分類できないものが、
運び込まれてくる。

『理玄異聞録』の志岐理一郎と久遠異紀が標本箱を前に観測する
收納品 『人体系標本』 『脈動あり』

03 / KANKIGAKARI

記すのは、正体ではない。

何が起きるのか。

どんな条件で現れるのか。

どこまで影響するのか。

どう扱えばいいのか。

何を記し、何を記さないのか。

観記掛が残すのは、そこまでの記録だ。

RECORD 01

『観測初日、帰路にて水路上に類似の灯影を一度認む。条件不定。判定保留』

RECORD 02

『危険性なし』
『手袋推奨』

RECORD 03

『切り分け、なお未了。』

「どう扱うたらええんか……正直、皆よう分からんかったんです」

「これだけあれば『どういうもんか』分かります」

測る者と、写す者。

『理玄異聞録』の志岐理一郎が月明かりの下で標本瓶を掲げる

志岐 理一郎

観測官・標本医

形。寸法。重さ。構造。
持ち込まれたものには、まず現物から入る。

分からないものを、分かったことにはしない。

「……分からんまま、分かった顔をするな」
『理玄異聞録』の久遠異紀が硝子瓶の並ぶ室内で横を向く

久遠 異紀

書記官・元依代

かつて、異を受ける側にいた。
いまは筆を持ち、記す側にいる。

目の前にあったものを、なかったことにはしない。

「ここでおまんが黙ったら、
ここの“声”は、なかったことになる」
『理玄異聞録』の志岐理一郎が図面を測り、久遠異紀が帳面に記録する
「おまんが測り、わしが記す。
――そうでないと、残せんのや」

05 / CASES

観てきたもの

一件ごとに、届くものは違う。

『理玄異聞録』第一話、机上の記録をともに確かめる久遠異紀と志岐理一郎

第一話

封じられた標本

蓋の向こうから届いた息に、
理一郎は思わず、自分の名を返した。

『理玄異聞録』第二話、夕暮れの標本瓶を見つめる志岐理一郎

第二話

理の裂け目

同じ眼球標本の瞳孔に、
三人が、三つの違う景色を見た。

『理玄異聞録』第三話、机に広げた更紗を調べる志岐理一郎

第三話

朧紗

触れるたび手触りの変わる古渡更紗。
半日のあいだに、十二の層を巡る。

『理玄異聞録』第四話、雨の中で番傘を差す志岐理一郎

第四話

残雫

いつからあるのか、誰も知らない白鞘。
鞘書には、「たまに振るとよし」とだけあった。

『理玄異聞録』第五話、二胡を挟んで立つ志岐理一郎と久遠異紀

第五話

胡聲

二胡の音に、女の声が乗る。
観測を重ねるほど、その声は弾き手自身の声へ寄っていく。

『理玄異聞録』第六話、明るい部屋で背を向けて座る志岐理一郎と久遠異紀

第六話

白余

異紀は、十日の暑気休暇を申し出た。
理一郎は、「二週間で出せ」と言った。

『理玄異聞録』第七話、扇子越しに賽子を見つめる久遠異紀

第七話

三賽

――偏り、転がる

賭場の偏りを見に行った夜、
理一郎の出目が三度続けて揃った。

『理玄異聞録』の資料室で標本を観察し記録する志岐理一郎と久遠異紀

記録の外に残るもの

01

異紀ではなく、自分が二胡を弾くための許可願いを、
理一郎は調査課へ出した。

紙の上に、久遠異紀の名はなかった。

『理玄異聞録』の資料室の机に広げられた書類と筆記具

02

「それ、もう、繊維の束やろ」
「まだ、使える」
「……なら、替えとして持っとき。あっても邪魔にはならんき」

渡されたのは、平たい組みの絹の髪紐。

『理玄異聞録』の資料机に置かれた平たい黒い組紐

03

「もっていけ」
「……なんで、わしに」
「風邪でもひかれたら、仕事に支障が出る」

一本の番傘。

『理玄異聞録』の博物局入口に置かれた雨傘

04

窓際の席は、まだ白いままだった。

『理玄異聞録』の誰もいない夜の資料室

理は形を測る。

異は声を写す。

ここに、並び立ちて記す。

この三行は、
観測記録第一号の末尾に置かれます。

第一話

『封じられた標本』

第一話『封じられた標本』を読む