RECORD 01
『観測初日、帰路にて水路上に類似の灯影を一度認む。条件不定。判定保留』
京洛怪異観測譚
理は形を測る。
異は声を写す。
ここに、並び立ちて記す。
一話完結の連作短編
「これ、記すか?」
「――残す」
03 / KANKIGAKARI
何が起きるのか。
どんな条件で現れるのか。
どこまで影響するのか。
どう扱えばいいのか。
何を記し、何を記さないのか。
観記掛が残すのは、そこまでの記録だ。
RECORD 01
『観測初日、帰路にて水路上に類似の灯影を一度認む。条件不定。判定保留』
RECORD 02
『危険性なし』
『手袋推奨』
RECORD 03
『切り分け、なお未了。』
「どう扱うたらええんか……正直、皆よう分からんかったんです」
「これだけあれば『どういうもんか』分かります」
観測官・標本医
形。寸法。重さ。構造。
持ち込まれたものには、まず現物から入る。
分からないものを、分かったことにはしない。
「……分からんまま、分かった顔をするな」
書記官・元依代
かつて、異を受ける側にいた。
いまは筆を持ち、記す側にいる。
目の前にあったものを、なかったことにはしない。
「ここでおまんが黙ったら、
ここの“声”は、なかったことになる」
05 / CASES
一件ごとに、届くものは違う。

第一話
蓋の向こうから届いた息に、
理一郎は思わず、自分の名を返した。

第二話
同じ眼球標本の瞳孔に、
三人が、三つの違う景色を見た。

第三話
触れるたび手触りの変わる古渡更紗。
半日のあいだに、十二の層を巡る。

第四話
いつからあるのか、誰も知らない白鞘。
鞘書には、「たまに振るとよし」とだけあった。

第五話
二胡の音に、女の声が乗る。
観測を重ねるほど、その声は弾き手自身の声へ寄っていく。

第六話
異紀は、十日の暑気休暇を申し出た。
理一郎は、「二週間で出せ」と言った。

第七話
――偏り、転がる
賭場の偏りを見に行った夜、
理一郎の出目が三度続けて揃った。
01
異紀ではなく、自分が二胡を弾くための許可願いを、
理一郎は調査課へ出した。
紙の上に、久遠異紀の名はなかった。

02
「それ、もう、繊維の束やろ」
「まだ、使える」
「……なら、替えとして持っとき。あっても邪魔にはならんき」
渡されたのは、平たい組みの絹の髪紐。

03
「もっていけ」
「……なんで、わしに」
「風邪でもひかれたら、仕事に支障が出る」
一本の番傘。

04
窓際の席は、まだ白いままだった。

理は形を測る。
異は声を写す。
ここに、並び立ちて記す。
この三行は、
観測記録第一号の末尾に置かれます。
第一話
公開URLを設定すると、このボタンから第一話へ移動します。